Art Site Horikawa-I

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3月11日のクライシスを経て

マズローの法則」が逆転した
(ローターco.jp 読み物ランキングより)
特別連載『スペンド・シフト 希望をもたらす消費』【第1回】

PRESIDENT BOOKS
今我々の社会を覆っているこの問題がかなり解決されたとして、再び消費者はマズローのピラミッドを登り始めるのだろうか。

マズローの法則がひっくり返った

ガーズマはかつてADWEEK誌で、“Maslow Upended”という短い記事を書いたことがある (2009年4月7日)。1980年代の景気拡大期を経験したアメリカ人にとって消費に身をやつし、富を築くことが、まさにマズローの欲求階層のピラミッドを登るがごとく「帰属意識」や「地位」、そして「自己実現」というより高度な欲求(あるいは野心)を追い求めることと重なりあっていたであろうことは想像に難くない。

しかし、不動産価値が暴落し、年金が消え、毎月65万人(記事執筆段階)が失業するという事態になり、食べ物や衣服といった「安全欲求」すら満たされることが自明ではなくなったのである。マズローの階層を何段階か突き落とされる経験をすることで、アメリカ人にとって、マズローの階層でも下位にある「安全」がむしろ共同で分かつべき「今」の欲求の対象となったとガーズマは述べている。そして今の日本では、この「安全欲求」は恐らく戦後で最大の値を示しているのである。

マーケティングに携わるものは、多かれ少なかれマズローを消費者理解の拠りどころとしていることが多い。往々にしてそれはマーケターの経験則もしくは希望的観測によるものであるが、肉体的欲求より精神的欲求、均質より多様の方が「上位」として位置づけられ、「過去」より「現在」、「現在」よりは「未来」の消費者の方が優れていると考えてしまうことの方が多い。

こういった消費者に対するいわば「進歩主義的理解」についての批判は今に始まったことではない(松井剛「消費社会の進歩主義的理解の再検討」一橋ビジネスレビュー2000)。しかし、つい実務上都合が良いという理由で、この左から右(あるいは下から上)というチャートを描いてしまうのである。

それでは幸いにして、今我々の社会を覆っているこの問題がかなり解決されたとして、再び消費者はマズローのピラミッドを登り始めるのだろうか。

ガーズマは前述の記事の最後で、それを「ブランド」が担うべき役割の一つに挙げている。「今日のブランドの役割は、人々が憧れるようなファンタジーの世界を作り上げることではない。人々が再び一歩ずつさらにゆっくりとマズローの階段を上るための自信を与えるのか、あるいはここにとどまりながらも、爽快なほどにリアルであるこの世界を楽しむことを勧めることかである。」と述べ、一方的な答えは出していない。

『スペンド・シフト〜希望をもたらす消費』(プレジデント社)
フィリップ・コトラー=序文 ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ=著 有賀裕子=訳
「何を持つか」より「どう生きるか」——買う力は、変える力である。危機を乗り越えて覚醒した消費者は、絆、信頼、未来のためにお金を使っている。

>>『スペンド・シフト〜希望をもたらす消費』の詳細はこちらから

※この書籍は7月21日発売です

【書籍目次】
 フィリップ・コトラーによる序文
 序 章 「より多く」から「よりよく」へ ミズーリ州 カンザスシティ
 第1章 「どん底」というフロンティア ミシガン州 デトロイト
 第2章 「モノを集める」から「知識を集める」へ テキサス州 ダラス
 第3章  支出を伴わないステータス・シンボル マサチューセッツ州 ボストン
 第4章 ソーシャルメディアという「方法」 フロリダ州 タンパ
 第5章 「町内会的」資本主義 ニューヨーク州 ブルックリン
 第6章  失われた信頼を取り戻す ネバダ州 ラスベガス
 第7章 「顔の見える企業」だけが信頼される ミシガン州 ディアボーン
 第8章  生活を豊かにするイノベーション カリフォルニア州 サンフランシスコ
 終 章  危機を乗り越えて生まれ変わる カリフォルニア州 ロサンゼルス