舟見倹二•版の軌跡」展に寄せて
新潟市美術館の市民ギャラリーで「舟見倹二•版の軌跡」展が開催されています。貘三太郎さんで小論を書きましたので掲載します。見応えのある展示となっているはずです。私はスケジュール的に最終日に見に行く形を考えています。
to One-Mart EXPRESS
「舟見倹二•版の軌跡」展に寄せて
舟見倹二のThe Series of Spaceシリーズを20年ほど前から身近な位置で見続けてきている。自宅の座敷ギャラリーにはその最新作と60年以上前に始まる油彩作品の一端、近年のbox art(アセンブリッジ)にもう一つの柱である木工クラフトが常設展示されている。アトリエでは1,000点以上となったシリーズの厚みに驚愕。傍らの本棚には戦中から戦後にかけての貴重な美術雑誌も見ることもできる。そんな関わりの中で、常に自らを鼓舞して旺盛に制作に挑み続ける万年青年の舟見パワーにいつも感心させられてきた。
この度の出品作品は一辺が1mの正方形パネル12枚。それぞれが制作年順に6点から12点の色調、図、大小様々の版の軌跡のアラベスク。合わせて100点余りが貼り込まれている。これまでのおよそ十分の一の作品を選んで「貼り交ぜ屏風」に仕立てたダイジェストである。次に感じたことは日常的に使用されているQRやバーコードと同じデザインコンセプト。直交座標による無限級数的な空間分割、貼り交ぜ方である。
さて、舟見が絵画から版画に入って30年余。公募団体から脱却し個展、グループ展などを基本に活動を展開。大掛かりな回顧展も記憶に残る。コンクールへの挑戦、受賞の機会は多く、その歩みは歴然と輝いている。また制作の一環としてメモやコメントも書き続けてきている。2,000年の「ストライプの構造とその生成について」で、<私は版を通して現代美術に接近し得たことで、それまでの油彩絵画と決別し、シルクスクリーンによる版への移行は現代の平面というこれまでの油絵で試みたものを越え、一つの指針を与えることになった>とある。舟見はここで確認している指針に違わず今日に至っている。
70年代末にシルクを始めた頃は、ニス原紙をカッターと定規で手切りしてアイロンでシルクに貼る手仕事勝負。その後、83年頃から水性二層フイルムを利用し、01年頃より感光焼付けの製版となった。最近はネガフイルムの皮膜をカッターで掻き取ったスクリブル模様を矩形に切り出し、それをモジュールに原版を構成する例が多い。
初期作には有機的な形も見られるが具象形は一切使用しない。円形、扇形、直線、三角形、正方形、長方形、短冊形、平行四辺形、ストライプ(縞)、波線、曲線が画面の要素である。それらがシンメトリー、グラデーション、地と図の反転、インク質感の操作、錯視や透視図法の抑制的使用などの原理で生成へと導かれている。よく使われる企ては空間を動かしかつ締めるワンポイント的な布石。
初期作品のコンセプトはハード・エッジやミニマル・アートに通じる要素が強い。最近のカッターによるスクリブル的な形象の導入は抽象性においてはかなり異質な印象である。格子状の配列は市松模様のニュータイプに見えてくる。旧作を短冊に切り、編み込む試みもあった。印刷に伴いトンボの位置、刷る順序をずらすことで新たな効果を発見することも多々あるという。
舟見はシルクスクリーンの可能性の中で目、手、心を統合させる実践の場所に出会った。以後シルク印刷法を高度に身体化しつつ、美的秩序あふれる画面を一つ一つ生成させてきた。視線に正対して立ち上がるその画面から視点を深みに誘う静寂な小宇宙が見えてくる。それは情報や森羅万象の動きに右往左往する日常の感覚を純化した世界である。聞こえてくるのは、スキージーで図の形象をシンメトリカルに定着するよどむことのない呼吸のリズムである。
2011,9 フリーキューレター 貘三太郎