Art Site Horikawa-I

書くことを積み上げ、アート生成に向けての発想・構想力を鍛える。

舟見倹二さんの個展に寄せて

本日の新潟日報の「アートピックス」記事を、ライターの貘さんの許可を得て掲載します。
着実さの中にも新たな試み
 ▼舟見倹二版画新作展(6月4日〜10日、上越市本町4のギャラリー花地蔵)
 今回の出品作は小品を含めて制作番号千十二番からの新作十六点。着実な追究の中に新たな試みが見られる。
 着実さの意味は丸、四角、三角の基本図形と平行、垂直、45度の斜線などの要素とシンメトリー構図を用いる一貫性。色調は、4〜6種の版で2〜3色に渡るグラデーションで刷り重ねている。その階調の印象を暗闇から燭光(しょっこう)へとでも言うべきか。天空から地平線へと言うべきか。いつもながら、美しく、そして寡黙である。
 新たな試みは構成要素の図形細部にある。それを舟見さん自身は「はみ出した重なりの傷跡」という。それは定規やコンパスなどによらない手描きによるなぐり描き的な線とそれによる形の組成。そして、中心ある安定した構図や整然としたリズムにあえて打ち込む波紋の一点。
 それらは純粋抽象という硬質感、冷徹な感情の抑制から視覚、視界を適度に解き放ち画面を生動させている。また、作品「the series of space’10c—1」=写真=に見られる正方形を偶数個組み合わせてパターン化する手法。これは前作の「編み込み」シリーズのグリッドから生じた。舟見さんの80歳半ばの身体の呼吸、心の起伏、季節の感情、社会の動きからの表象などとリンクする微妙な変化である。

 ほかに5種類の出品がある。舟見さんはシルクスクリーンのシステムにのっとり、同じ版に異なる色調を施しイメージを増殖させる。見る側は、同じ素材で数種類の料理を堪能することになる。
 舟見さんは、自らの作品から次なる作品を、つまりは「芸術から芸術が生まれる」の王道で揺るぎなく生成を続けている。
 (貘三太郎・フリーキュレーター)