アートの話題(石上純也)
液状化被害の民家、秋田で再生
クレーンでつり上げられた被災家屋(5日、千葉県我孫子市で)
東日本大震災で液状化被害に遭った千葉県我孫子市布佐(ふさ)東部地区の家屋7棟が、秋田市内で計画されている認知症の高齢者向けグループホームに生まれ変わることになった。
古民家を活用して新たな建物を造るプロジェクトで、東京都内の建築設計事務所が手掛ける。一時は取り壊しも考えた住民からは「思い出が詰まった家が人の役に立つのはうれしい」との声が上がる。
利根川沿いの埋め立て地を抱える同地区では液状化で多くの家屋が傾き、119棟が全壊扱いとなった。修繕して暮らし続ける住民もいるが、昨年1月時点で約50棟に倒壊の危険性があるとして、市は住民に解体するよう求めてきた。
プロジェクトを進めるのは「石上純也建築設計事務所」。秋田市の医療法人「惇慧会(じゅんけいかい)」からグループホーム建築を受注し、全国の古民家から集めた部屋や玄関などで、新たな建物を造る建築スタイルを提案した。
布佐東部地区の被災家屋は傾いてこそいるが、骨組みはしっかりしたものばかり。事務所が昨年3月、市を通じて再利用を打診したところ、7棟の所有者が「愛着のある家。ぜひ使ってほしい」と応じた。
運搬作業は昨年12月に開始。「曳家ひきや」という手法で、骨組みは崩さず、クレーンでつり上げてトレーラーで秋田市に運ぶ。同事務所の設計担当、山家章宏さん(29)は「家屋の個性を残し、入居者には施設ではなく『新しい家』に来たと感じてもらえると思う」と話す。
オープンは今年11月を予定し、18人が入居可能。岡山、和歌山県などの古民家も、入居者の個室や施設の廊下などに使われる。コスト的に割高だが、同法人は「部屋ごとに雰囲気が違い、認知症の人も場所を識別しやすくなる」と期待する。
同地区の作業は3月上旬頃には終わる予定。住宅を提供する榎本美津枝さん(61)は「亡くなった義母や夫と生活した思い出深い家。完成したら、ぜひ秋田に見に行きたい」と話す。
(2013年2月25日 読売新聞)