Art Site Horikawa-I

書くことを積み上げ、アート生成に向けての発想・構想力を鍛える。

"E-mail stamps" Seriesについて

2006年2月のギャラリー檜での個展のために2月26日付けで書いた「のコメントです。
 
Digital works "E-mail stamps" Seriesについて」
1968年の秋に前山忠君に随行して新宿のアパートに石子順造氏を訪問し、静岡のグループ幻触のメールアートの実物を見ることができ興味を持ちました。それをヒントに、官製はがきの宛名面と文面を逆に用いたりして遊びました。その後、高松次郎氏の「石と数字」作品、美術手帳でのアースワークの紹介、ベトナム戦争反対・70年安保反対デモの騒乱における投石、関根伸夫氏のステンレスの柱に石を乗せる「空相」など、石(自然)への着目の渦中で新しい表現を模索していました。そして、1969年7月のアポロ11号の月面到着に合わせて信濃川の石を拾い、それを針金で結わえ荷札を付けて郵送するというメールアート作品を考案したわけです。それが評価されて中原佑介コミッショナーによる第10回東京ビエンナーレに招待されたことは大きな飛躍でした。      
 その石を送るメールアートもやがて自らの内で形式化し新鮮味を失い、新展開の活路を自作切手に求めました。1971年の「ことばとイメージ」展(ピナ−ル画廊)で佐藤栄作首相の零円切手を初めてつくりました。赤瀬川源平氏の零円札が一つのヒントでした。

次は、1972年の美術手帳の紙面開放計画で就任間もない田中角栄首相を取り上げました。その後、1976年には、ロッキード疑獄事件を記念した零円切手や御馬上の聖上陛下の像を拡大復刻プリントしたポスターなどの作品により真木画廊で個展をしました。その時、佐藤栄作切手が1点だけ売れました。C氏が初めて買ってくれました。1977年には零円切手だけで真木画廊で個展をしました。合計して12種類くらい作って、1982年の石子氏の追悼切手をメールアートで発表したことを最後にやめてしまいました。
制作をやめたことに関して、いくつか理由がありますが、「週間朝日」と「太陽」に掲載中止されたことが大きく影響しています。「週間朝日」は掲載直前のゲラ刷りが残っています。この件は原稿料が支払われて受け取りました。この件の顛末については、針生一郎氏の肝入りで「新日本文学」(1977年1月号)に記事にしていただきました。「太陽」の件は1982年頃でした。その時に零円切手を掲載したいと電話依頼をくれたのはT氏でした。早速、田中角栄切手を送りましたが、何の説明もなしに送り返されてきました。全く失礼な話でした。キャプションに「日本列島改悪論者像」とあったのが引っ掛かったようです。いずれにしても肖像権や著作権が関わっている非合法的な要因があったからであると受け止めました。
 その後、一昔過ぎて、1996年に作家・美術史評家の彦坂尚嘉氏が私をホルベイン社発行の「アクリラート」(Vol,32)の作家インタビューで取り上げて、石を送るメールアートや零円切手を再評価してくれました。そして、その記事がニューヨークを拠点に国際的に活躍されている美術史家・インデペンデントスカラーの富井玲子氏の眼に止まり、2001年2月からのロンドンのテートモダン美術館での「センチュリーシティ展」に石を送るメールアートで招待されることになったわけです。
このような作家としての螺旋的な回帰を経て、パソコンで画像処理のPhotoshopソフトを購入し技術的に少し習熟した頃にアメリカで911同時多発テロが起こりました。その言い様のない衝撃をどうしても表現したいと思いました。そこで、2機目がWTCビルに突っ込む直前の画像(AP=共同)を取り込んで、ほぼ20年ぶりに切手形式の作品を作ってしまったわけです。

最初は零円切手をパソコンツールで復刻するような意識が濃厚でしたが、電子メールで用いることをコンセプトにした形式が生成しE-mail stampsと名付けました。
 そのE-mail stampsと零円切手のデジタル作品合計30点を2002年の5月から6月にかけてteoria-kitaibunshiのメーリングリストの中で発表させていただきました。そのインタラクティブなプロセスで彦坂氏や富井氏らから批評、アドバイスをいただき今日に至っています。
始めの頃、展示の際はパーソナルプリンターでアウトしていましたが、アウラが少なく退色のおそれが濃厚でした。その懸念を、写真店で銀塩プリントすることで解決し、表現方法として完成しました。 
これらの作品は、最大でA4判です。銀塩プリントの場合は6ツ切りを標準サイズにしています。小さなサイズの作品ですが、クローバルからパーソナルまでの広がりの中で多様なメッセージを託すことができます。また、大作、大金を使うアート事業の溢れる今日ですが、小さなサイズ、小金アートの可能性の追求の一環でもあります。今回は自らの還暦を記念する個展で、自分自身の歩みを主テーマにしています。一部に関連作品の零円切手や時事を扱った盗用・流用アートの作品もあります。